現代都市政策研究会2019年9月例会報告・感想



『子どもの貧困と無料塾~無料塾「中野よもぎ塾」の活動を通じて見えてくるもの~』

 
Y.        k. 

 経済的な理由から塾に行けない中学生を対象にした無料学習塾、「中野よもぎ塾」を主宰する大西桃子さんから塾の内容と中学生の状況を9月例会で伺った。勉強を教えるだけでなくボランティアで集まった大人たちと関わることで子どもだけでなく大人も成長していく塾だという。子どもも大人も楽しむ無料塾が中野よもぎ塾と言えそうだ。



■お金がないと救われない子どもがいる。塾の概要



「中野よもぎ塾」は2014年4月からはじまった。

 きっかけは、塾に行かせたいけど経済的な理由で塾に行かせることができないと知人から相談され大西さんが家庭教師を始めたことだ。

 始めてみると他にも同じような子どもが多いこと、その子どもの兄弟も必要としていること、塾代が高いことに気が付き、お金がないと救われない子どもたちがいることを知り何とかできないかと考えだした。当初は出版社に努めながら休日や早めに帰った日に対応していた。会社を辞めてフリーになったためもっと多くの子どもたちをみようと思ったが、仕事の忙しさは変わらないことから3人が限界だったため、塾にすることにしたのだそうだ。

 塾の授業料は無料。経済的な理由で塾や家庭教師など有料の教育サービスを使っていない中学生が対象で25人の塾生を大人のサポーターが、ほぼマンツーマンで勉強を支援する。

 塾生を25人としているのは、大人を含めると50名ぐらいとなることで会場の広さの問題から、この人数にしている。子どもを教えたいボランティアが多い場合は、ほかに事務的な作業などの手伝いもしている。

 授業は、毎週日曜日の18時から21時に行われる。1、2時間目が通常の授業。3時間目に参加しているサポーターと塾生がディスカッションすることや創作活動としているのが特徴だ。外国人を呼んで自国の学校の話をしてもらうことや衆議院選挙での争点や少年犯罪と少年法などの話題を専門家の助言を受けながらサポーターも含めてのディスカッションをする。この3時間目は、サポーターのなかからやれる人が授業を考えるのが基本。毎週は難しいので英語や学習ゲームなどをする時もあると話されていた。

 また、サポーターと美術館や日帰り旅なども行っている。基本的に 大人が行きたいところへ子どもがついていくものだそうで、文化に触れる機会が少なく、大人と話すこと、話を聞く機会がないことから社会のことを知る機会がないことへの対応ともなっている。

 さらに、夏休みには予算の範囲でどこまでできるかの計画づくりから実際のキャンプまでを大人が指導をせずに子どもたちが自ら考え実行することもしている。母子家庭では自然に親しむことが少ないことへの対応だけでなく、誰かのため、みんなのために何かをしようと考えるようになり、仲間意識、集団意識が芽生えることになり、卒業年の3年生になるとかなり盛り上がっているそうだ。



■子どもたちの環境



 大西さんによると、やってくる子どもは母子家庭が多く、兄弟姉妹が多いこと。就職氷河期時代で正社員になれない時代の保護者であるため非正規であったり、健康の理由などで働けない家庭であったり、保護者の再婚で家庭にいづらいなどが多い。不登校の子どももいる。

 経済的な理由で問題集や辞書を買えないだけでなく、兄弟の面倒を見なくてはならない。家庭に勉強机がない。本棚がない。兄弟で部屋を使っている。勉強する環境が家庭にないことからどうやって勉強をしていいのかも分からないことでさらに学力がつかないケースもあるそうだ。偏差値が23というケースもあったという。

 高校の進学を考えると、経済的な理由から公立しか選べないことで行きたい高校にいけずモチベーションが上がらないことや高校に行ってもアルバイトをしなくてはならず、学習が遅れドロップアウトしてしまうこともある。



 また、保護者が高卒で大学受験を知らないことから模試があること、「偏差値」を知らないこともあり、受験に必要な情報がない家庭も多い。

 そのため、保護者も子どもも大学進学のイメージが湧かない。卒業した後で正社員や会社で働くイメージがなく、高校を卒業したら居酒屋、コンビニでバイトするぐらいまでしかイメージがない。何のための勉強なのかを分かっていないこともある。

 保護者が夜も働いていることで、カップラーメンやファーストフードが晩御飯で、給食だけいっぱい食べて晩御飯を食べないなど偏った満足な食事をとれていない子どもが少なくないそうだ。 

 塾にやってくる子どもは、「中野区の子ども食堂・学習支援マップ」が区立小中学校で配布されるため、保護者が見て連絡するケースや子ども自身がネットで探してくるケース、学校の先生が連れてくるなどがあるという。

 毎週の塾だけでなく、塾の荷物置き場にしようとしていた築40年のアパートの一室(四畳半)を勉強部屋として開放しており、再婚した義理の親との関係が気まずく、この部屋に立ち寄る高校生もいるという。



SNSで集まるサポーター



ボランティアで勉強を支援するサポーターは、大西さんが居酒屋でスカウトすることもあったが、今ではほとんどがSNSやホームページをみて連絡をしてくるそうだ。

 常時募集が行われており、塾や家庭教師などでの指導経験がなくても良く、年齢は問わない。2030歳代が多いが大学生や60歳以上の人も参加しており、毎回参加できなくて参加できる日だけで構わないという。

 大西さんの話を聞くと、サポーター参加者は、塾の先生というより、子ども関わることを楽しみにするサークル活動、あるいは大家族的な場所に集まっているような印象を持った。塾のあとには飲み会があるというから、子どもだけでなく大人も楽しみにしている塾なのだろう。

大西さんは、サポーターの方は経験を活かしたいと考えやってきて、子どもと関わることで自分を発見することにもなっている。塾は大人が楽しくないと子どもが楽しくない。手弁当だけど関わる人が全員楽しめる場所として考えていると話されていた。ひとつのコミュニティともなっていることが伺える。



■費用の工面は? 気になること

 

 課題は、学校との連携はパンフレットの配布だけだそうなので、担任教師との連携のあり方などはないだろうか。

 行政による支援は、社会福祉法人によるマップの作成と配布、区内の9箇所ある子ども食堂と9箇所ある無料塾のネットワークをつくり情報交換と区民への情報発信を行っている(子ども食堂への補助金は2019年度から始まった)。

 しかし、そもそもで考えれば、学校教育で今回のケースのような子ども学習を支援すべきと考えられるが、学級崩壊がある、それも、有名私立へ入学することが決まっているような子どもが授業を息抜きの場としてしまうこともあり対応ができない実情も聞くと、学校教育の役割を考えることも必要ではないだろうか。

 最も気になるのは、費用面のことだ。NPOにするなど法人格を持っていないことも気になる。

 この点については、会場日は月に5000円もかからないので夏のキャンプや冬の合宿費用も含めて寄付でまかなえている。寄付は、SNSなどしっかりアピールすればクラウドファンディングで集まる。イベントで寄付を募っても集められると気にしていないようだ。

 法人格については、NPOにするとお金の使い道が限られてしまう。とにかく手続きが嫌。サークルとして臨機応変にしていくのがあっていると考えていると屈託がない。



■他自治体で参考になること



 無料塾には、勉強だけを教えているケースがあるが、「中野よもぎ塾」は私生活まで関わっていることも特徴だ。食の問題にも気がつき対応していることを考えると、学習支援だけでは家庭環境、学ぶ場の環境も考えた支援が他自治体でも必要なのだろう。塾を始めた当時は子ども食堂がなかったが、現在では区内に9箇所開設されており、子ども食堂であまった食材を提供してもらうなど連携もしているという。子ども食堂で学習支援をするところもあるそうなので、学習と食事の連携も考えていくことが必要ではないだろうか。

 塾というと形をしっかりしないとならないように思えてしまうが、サポーターや資金をネットで集めてしまう、大人も楽しむなど従前の発想とは違う運営が塾の最大の特徴だ。

 学習支援をするサポーターが「先生」ではなく、多様な大人がかかることで、「先生くささ」「学校くささ」がなく学校になじめなくてもこの塾なら行きたくなっているのでは、と思えてならなかった。塾というより、子どもと大人が関わる場所、コミュニティが「中野よもぎ塾」なのだろう。

 大西さんは、昼間働いているため地域の人たちを知り合うことがなかったが、塾を始めたことでつながり、お弁当屋さんから食事の差し入れがあったり、レストランが定休日に場所貸してもらったり、 不動産屋さんから気になる家庭に塾を紹介してもらったりしているそうだ。塾がきっかけで地域との連携が始まったことになり、このような広がりができることも参考になった。

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