現代都市政策研究会2020年10月例会感想

 「手繰り寄せるキーマン(主体)がいることが、解決に結びつく」

 T,  M.

 .はじめに

鈴木さんから、コミュニティ交通の歴史として、武蔵野市のムーバスの例を取り上げられ、当初2千万円の限度の補助が現在は9千3百万円と拡大していること。その一方で地域人口は減少していること。これは他の自治体においても同じような状況になっていること。また、2008年頃から「買物難民」という言葉が使われるようになり、例えば渋川市などでは、1982年と2004年を比べると飲食料品店は25%に減っているとの紹介がありました。

そのようなことから、地域における「あいのり」交通の事例として、渋川市社会福祉協議会が取り組む事例と秦野市栃窪自治会と社会福祉法人星輝会が取り組む事例の2つが紹介されました。

.渋川市社会福祉協議会が取り組む「あいのり」交通

(1)弱った、困った、どうしょう

最近どんなに品揃えを変えても一人当たりの購買力が減っている。時間によってはお店が閑散としている。資金を投じた宅配サービスも当初は良かったが、その後利用者が減っているとのスーパーマーケット経営者の悩み。親子連れが減り、店頭に客がいないのでますます客が来なくなったとのドーナツ店(ミスド)のぼやき。高齢者の外出支援にタクシー補助をしてるが、経費がかさみ利用者も特定されているなどの自治体職員の悩みが紹介された。

(2)課題は移動だった

渋川市社協の地区別懇談会での地域課題のトップが「高齢者の移動」だった。「課題ならやるべし」と動いたのが、キーマンの地域福祉課長さん。

(3)やってみて、どれもダメだった!

しかし、これまで様々なことを試みてきたがどれもダメだった。

1)移動販売では、最後の方に回ったところでは欲しい品物がなくなってしまう。

2)店舗の設置は、仕入れ原価が高くなってしまう。

3)巡回バスでは、客が確保できない。

4)宅配サービスでは、アマゾンのようにうまくマッチングができない。

(4)「あいのり」へ

結果、行きついたのが「あいのり」だった。

「のりあい」の仕組みとしては、75歳以上の買い物が困難な高齢者(自分で判断)が、月2回、自宅から最も近い店舗へ、タクシーに相乗りして買い物に行く。距離に応じた料金は払う。(1回500円、今は400円。一般協賛金(個人や企業口2万円、3口以上でHP等で公表)安くしている。)買物時間は、タクシー会社とスーパーの客が最も少ない平日午後。

(5)運輸支局オールゼロ回答! では、どうしたか

1)しかし、そもそも乗用タクシーの乗合は、当時は法律で禁止されているため、運輸支局に問い合わせても全てゼロ回答だった。

2)そこで、運輸省の顔もたてながら、①社協とタクシー事業者が契約し、月額払いとした②運行ルートを社協からタクシー事業者に指示③利用料金がタクシーを上回らないようにした。つまり、社協と事業者が契約し、利用者が表に出てこない形で仕組みを組んだとのこと。

(6)交渉にバックデータ、データが示す高齢者の購買力

1)スーパーにも利用者人あたり100円以上の協賛金を負担してもらうため、独自の買い物額調査を行い、高齢者の購買額が、一般の人が2000円/週に対し、3989円/週と高いこと。1店舗試行時から6店舗事業開始につれて、週の客単価が増えているというデータを示し、100円払っても利益が出る。社会貢献しながら顧客単価が上がると理解を得たとのこと。

(7)利用料金は必要

1)利用料金については、2㎞未満は往復500円、以降500mごとに+100円と設定。遠い人は高くなるが粘り強く説得したとのこと。そこには、キーマンである渋川市社協地域福祉課長さんの膨大な事業費がかがる事業を作ることが未来に誇れるのかという思いがあったとのこと。

2)「のりあい」については、2019年7月に市内全域をカバーしたとのこと。

(8)「あいのり」の事業費はどのくらいかかるのか

1)述べ利用者2000人の場合、支出で約310万円。収入利用者料金と協賛金で160万円。社協の負担額は150万円。(人件費を含む。介護報酬等社協の他の収益を充てる)

2)乗用車タクシーを使った事業は数千万円から数億円に上ることが多い。

3)この「あいのり」であれば、利用者が増えれば増えるほど利用者小鳥当たりの費用は減少する。

(9)事業効果は、ミスドで待機、賑わいに貢献

待っている間も楽しい。交流も生まれ、お店も賑わいと購入実績が上がる。運転手さんが買い物かごを自宅玄関まで運んでくれる。スーパーのカートで、いつも以上に歩ける。意識しないで健康になど事業効果も上がっているとのこと。


.秦野市栃窪自治会と社会福祉法人星輝会が取り組む事例(課題を発見する力)

(1)自治会の課題発見力

秦野市栃窪地区の自治会では、これまでも自宅と駅までの交通が必要なことを思っていたとのこと。

(2)調達の達人、転機を利かせたキーマン

1)もともと、買物に利用できる車両を市の福祉担当の職員が呼び掛けていたが、そこに買物ではなく「施設と駅を往復するバス」の利用の提案が社会福祉法人星輝会からあり、社会福祉法人の社会貢献事業として、車両の空いている時間を活用して、栃窪地区の自治会と連携してこの事業を行っている。(ただし、コロナ禍で今は中止となっているとのこと)

2)事業実施にあたっては、社会福祉法人星輝会の事業部長さんが、新規事業ではなく、既存事業に「あいのりさせる」と理事長に報告、「顔見知りのヒッチハイクでしょう」など機転をきかせ事業にこぎつけている。

)自治会側も、自ら手作りで乗車証を作成、乗車を希望する人を前日の午後7時までに法人に連絡するなどしてこの事業を支えているとのこと。


.感想

コミュニティバス事業など行政が主な主体として運営している事業は膨大な経費と自治体への負担がかかっている。特に地方でバス路線の廃止が続く中で、利用者が見込めない中での巡回バスや乗用タクシー等の運行は自治体が相当な負担を覚悟しない限り無理であり、また立ち行かないと思う。

とすると、様々な主体が様々な地域資源を結びつけて移動手段を確保していくしかないのではないか。その際、常に立ちはだかるのが制度の壁。そしてこれまで培われてきた価値観。例えば、タクシー事業はこれまでは、運送といった概念(タクシー事業は今は福祉も含めドアツードア事業)。制度の壁やこれまでの価値観にぶつかりながらも、そこには地域の実情を理解し、機転を利かせて動き、新たな事業に結びつけ、繰り寄せるキーマン(主体)がいることが解決に結びつくと感じた。

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