現代都市政策研究会2024年6月例会感想

 

公契約条例の今後にむけて

 H.     S.

 岡田さんから川崎市公契約条例の話をうかがった。市が締結する特定の契約に、条例が定める賃金支払い義務を相手に課するのがポイント。リーマンショック(2008)で日本でも労働者が厳しい状況におかれた。そのあとの2010年条例化は迅速な対応で立派だと思った。

 ただし、本音で言えば、担当者は作業報酬台帳などを調査し、実査もやるだろう。必要なら是正勧告をしなければならない。私の経験からは、経理、契約担当は、ただでさえ忙しいのにこれもやるのかと思った。趣旨はりっぱだけれど、相手もまじめな企業ほど事務負担が大変になるなあと思う。

 質疑では労働者の賃金、雇用条件の課題は国が解決すべきという意見もあった。一方、川崎市や野田市のように国がILO94号条約(公契約における労働条約に関する条約)に批准していない現状で市が条例化した意義もある。

 私はこの意見と条例の架橋のためにこんなことを考えた。

 1つは、条例の効率的運用に事務軽減をする。2013年に公契約条例を作った足立区では労働者、事業者にアンケートを行い制度見直している。課題は①労働者への周知方法と②事業者が提出する労務台帳の簡素化だという。

川崎市では労働者周知はチラシ中心とのことだが、もっとダイレクトに届く手法を契約部門だけでなく総務・人権部門・広報部門と開発できないか。 例えば、外国人労働者も考えた場合、市の公契約条例上の作業報酬下限額や労働条件を知らせて相談窓口とリンクするアプリを作成。これを労働者全員にダウンロードさせることを契約条件にしたらどうか。

 作業報酬台帳については簡素化ができないか検討する。例えば、台帳提出義務が契約期間中3回あるのだが、これはシステムで市から随時アクセスできるようにするなど事業者負担を軽減し、かつ履行担保できる手法を考えるとよいのではないか。

 2つは、国へのILO94号批准を働きかけること。36協定など時間外労働があたりまえの時代では国はILO条約に参加できなかったかもしれない。けれども、2024年問題といわれるようにトラックドライバーの労働時間にも上限が設けられた。外圧によってやむを得ず国は制度化したかもしれないが、前提条件が変わりつつあるのだから再度要望する。

3つは、今後の法律要望になるが、イギリス(2015)、オーストラリア(2018)の現代奴隷法も労働条件の情報開示を企業に求めているので、そうした点から雇用条件の労働者への開示に絞った法制化を求めることができるのではないか。

 最後に、川崎市公契約条例は受注者の100%、労働者の50%が他の業務と比べ賃金が高い又は変わらないとしているように効果があると思われる。ただし、私には時代背景もあって労働者が大変だ、事業者は悪いというイメージで制度化したように感じた。労働者が大変なのはそのとおり。しかし、では事業者が悪いのか?公契約条例に入ってこれる事業者が増えることが大事なのではないか。例えば、賃金や労働者への周知、労働者の評判などを総合評価し、ポイントが高い企業を表彰するなどインセンティブを与える視点が大事ではないかと考える。(以上) 

補足 契約の履行管理について

 

公契約は大事だが、一般の契約をどうきちんとやっていくかも重要だと思う。

私が平成6年に管理職昇任したときの仕事は学校寄宿舎建設だった。当時、土曜日に工事があるので毎回現場に行った。受注業者の社長が転圧するローラーを運転している。中小企業なので社長が人件費対策や労働者を休ませるためにやっていたのだ。その社長が「室長さんも毎回よく休みに出てくるね。こんなに見られると手抜きができないよ(笑)いいこと教えるよ。いま、隣の高校も建て替えしているでしょう。あそこは転圧をいいかげんにやっている。隣で見ていてわかるもの。十年すれば地面が波打つよ。ここはすごくしっかりやっているからそんなことないけど」と雑談した。現場にいるだけでいろいろ教えてもらった。

工事の施工管理などは業者が現場の監督員を置いているが、自治体側でそれが正しくされているか見抜く力がないと書類上だけで終わってしまう。細部がきちんとされていない工事は、労働環境や意識も十分でないことが推定されるので、そこを重点的に監視すればよいのかと思う。

特に、契約担当者以外の適正管理手段、例えば、現場を見る力、工事管理の会議での真剣さ、検査員の質など見直すべきはたくさんある。例えば、私が人事にいた当初は検査員には任命の辞令交付をしていが、その後、事務簡素化で止めてしまった。さまざまな法令職の命免は簡素化された。形式はやめてもよいが、検査員の質はどう担保されているだろうか。単に経験者を充てるだけではないか。検査員の研修が必要なのではないだろうか。形式でなく現場に行かせて知識を身に着けてもらうことが大事だと思う。

委託契約の履行管理についても、工夫がいるのではないか。こちらも自治体に力がなければ監視する専門家を派遣するなどが必要ではないか。私がこだわる理由は、かつては直営で職員がやっていたことを契約の相手方にしてもらうのだから、直営と同等の質の確保が必要だと思うからだ。委託契約は予算の性質別分類では物件費にあたるが、人件費が減ったことで喜ぶのでなく人件費と同等の質を住民に提供できて初めて公共のサービスといえるだろう。委託先の業者が事故を起こした際「今後十分業者を指導する」という発表をする自治体がある。それはそのとおりだけれど、責任の所在は自治体にあることを忘れてはいないだろうか。「業者がちゃんとやっていれば問題ないのになんで事故を起こすのだ(怒)」というのは自分の責任=事業者にきちんと業務を履行させること、ができていないことを棚上げしているのに気づかない思いあがりではないだろうか。

直営を減らし委託事務が増えた現代では、委託事務の履行管理手法、そして自治体の責任はなにかという問いが立てられないといけないと思う。(以上)

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