現代都市政策研究会2024年9月例会感想
真鶴町の新たなまちづくりの取り組み:美の基準の今
U. K.
都市研究9月例会で、1994年に施行された真鶴町のまちづくり条例、特に「美の基準」について、長年にわたり真鶴町職員として関わってきた卜部直也さんが講師となり、町民の捉え方や現状について話を伺いました。卜部さんは大学時代に地方自治を学び、この条例があることがきっかけで職員となったそうです。
印象深かったのは、この基準があることで、町に空地を作って人が集まれるようにし、人の気配が感じられるようにする、集合住宅を建設する際には、ワンルームや家族向けなどの対象者を限定せず、若者や高齢者が共に生活できるようにして、高齢化が一気に進行しないよう配慮していることでした。
また、人の気配とは、たとえば漁師が仕事をする姿が見えるような生活風景が景色となることを意味し、それが「美」であるとされています。都市部では生活風景を排除することが良い景観とされがちですが、逆の発想が真鶴町の魅力になっていることにはまちづくりの魅力として参考になりました。
■民力を活用した地域づくりと活性化
ハード面だけでなく、ソフト面での取り組みも興味深いものでした。
その一つが、2014年に立ち上げられた「真鶴町活性化プロジェクト」です。このプロジェクトでは、職員が自主的に人を集め、提案から実行まで行うことが推奨されています。上司の指示で受動的に動くのではなく、職員が自ら考え実行することで、モチベーションの向上にもつながっているようです。実行予算は最大で5万円という限られたもので、工夫が求められることになります。
このプロジェクトの一環で、スタートアップ・ウィークエンド(※)が行われ、漁師町ではなかなか出会えなかったエンジニアやクリエイターと町の人々が交流する機会が生まれました。空き家を利用したお試し移住や、スタートアップ事業者やクリエイターが町に滞在するようになり、真鶴町の魅力が再認識され、Uターンも増えていることも興味深い報告でした。
■住民としての職員の役割
他にも興味深い取り組みが進められていることが分かりましたが、卜部さんの話を通じて、行政職員が主導するのではなく、住民や町外の事業者が活動しやすい環境や人間関係を築くことに重点が置かれていることが感じられました。職員は住民の一人として事業に参加し、意見が違っても同じ住民として関わることが大切だという姿勢が印象に残りました。
また、「美の基準」には、「生活風景は美しい」と明言した意義もあり、伝統的な建造物やモダン建築だけが美ではなく、普通の漁村風景や昔ながらの生活風景こそが「美」であるとしています。この点は他の自治体でも参考になるでしょう。どこでも同じような駅前風景が広がる現代において、「美の基準」の先進性には驚かされました。
気がかりなのは、住民がこの「美の基準」をどの程度理解しているかという点です。
別件で真鶴町を訪れた際、住民に話を聞いてもあまり関心がない様子でした。卜部さんによると、建築に関わらない限りこの基準に触れる機会がなく、地元の人とのつながりが少ないサラリーマンも多いため、知らない人が大多数とのことです。
しかし、全員でなくとも理解する人が増えれば良いとのことで、「野球でいえば3割バッターのようなもの」とおっしゃっていました。確かに3割バッターは一流の証です。地道に広めていくことが、まちづくりには重要であると再認識しました。
現地をまた訪れたくなっています。
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